退職して失業保険を受け取る生活になると、これまで給与から天引きされていた厚生年金から切り替わり、市区町村から「国民年金」の納付書が届きます。しかし、収入が不安定な失業中に、毎月16,000円以上(令和6年度:16,980円)の保険料を支払うのは大きな負担です。
「払えないから、しばらく放置しておこう…」
そう考えてしまう気持ちはよく分かります。ですが、その判断が将来、取り返しのつかない大きな不利益につながる可能性があることをご存知でしょうか。
実は、失業中の方には国民年金保険料の支払いを免除されたり、先延ばしにできたりする公的な救済制度が用意されています。これらの制度を使わずに「未納」状態を続けると、将来もらえる年金が減るだけでなく、いざという時の保障さえ受けられなくなるリスクがあるのです。
本記事では、失業中に国民年金を未納にするリスクと、それを回避するための「免除制度」「納付猶予制度」について、申請方法から将来の対策まで、誰にでも分かるように徹底解説します。この記事を読めば、あなたは不安なく手続きを進め、大切な将来を守るための一歩を踏み出せるはずです。
国民年金を未納のまま放置する3つの重大リスク
「少しの間くらい、払わなくても大丈夫だろう」と軽く考えていると、後で大きな後悔をすることになりかねません。国民年金の未納には、主に3つの重大なリスクが伴います。
リスク1:将来もらえる老齢年金が減額、最悪の場合はゼロに
国民年金の保険料を納めた期間や免除を受けた期間などを合計した「受給資格期間」が10年(120ヶ月)以上ないと、将来、老齢基礎年金を1円も受け取ることができません。
失業中に保険料を未納のままにすると、その期間は受給資格期間にカウントされません。もし未納期間が長引いた結果、合計の資格期間が10年に満たなかった場合、たとえそれまで何十年も保険料を払い続けていたとしても、年金額はゼロになってしまいます。
また、無事に10年の要件をクリアしたとしても、未納期間がある分、将来受け取れる年金額は満額よりも少なくなります。将来の生活を支える大切な収入源が、未納によって大きく損なわれてしまうのです。
リスク2:万が一の「障害年金」「遺族年金」が受け取れない可能性
国民年金は、老後のためだけの制度ではありません。病気やケガで体に障害が残ってしまった場合に支給される「障害基礎年金」や、一家の働き手が亡くなった時に遺族に支給される「遺族基礎年金」という、万が一の事態に備えるセーフティネットの役割も担っています。
しかし、これらの年金を受け取るには「保険料の納付要件」があり、原則として直近1年間に保険料の未納がないことなどが条件とされています。つまり、失業中に保険料を未納にしていると、突然の事故や病気に見舞われた際に、本来受け取れるはずだった障害年金や遺族年金が支給されないという最悪の事態に陥る可能性があるのです。
リスク3:財産を差し押さえられることも
保険料の未納を続けていると、日本年金機構から「特別催告状」といった督促状が届くようになります。これを無視し続けると、最終的には財産調査が行われ、預貯金や給与、不動産などが差し押さえられる可能性があります。
差し押さえは本人だけの問題ではありません。家族にも心配をかけ、生活に大きな影響を与えてしまいます。たかが年金と侮らず、支払いが難しい場合は必ず正式な手続きを踏むことが重要です。
【失業者のための救済策】国民年金の「免除制度」とは?
ここまで未納のリスクについて解説しましたが、ご安心ください。失業など経済的な理由で保険料を納めるのが困難な方のために、「保険料免除制度」が用意されています。
保険料の支払いが全額または一部免除される
免除制度は、本人・世帯主・配偶者の前年所得が一定額以下の場合に申請でき、承認されると保険料の支払いが免除される制度です。免除の割合は所得に応じて「全額」「4分の3」「半額」「4分の1」の4種類があります。
重要なポイントは、免除を受けた期間は、保険料を納付したものとして「年金の受給資格期間」に算入されることです。 これにより、未納によって将来年金がもらえなくなるリスクを回避できます。
失業者は所得に関係なく申請できる「特例免除」
「前年の所得だと基準を超えてしまう…」という方もいるかもしれません。しかし、失業した方には「失業等による特例免除」という特別な制度があります。
この特例免除を申請すれば、前年の所得にかかわらず、失業した本人の所得をゼロとして審査してもらえます。そのため、前年まで高収入だった方でも、失業を理由に全額免除を受けられる可能性が非常に高いのです。この特例は、退職した事実を証明する「離職票」や「雇用保険受給資格者証」などを提出することで利用できます。
免除期間のメリットとデメリット
免除制度にはメリットだけでなく、知っておくべきデメリットもあります。
- メリット
- 保険料の支払いが免除される。
- 期間中は年金の受給資格期間にカウントされる。
- 障害年金や遺族年金の受給要件を満たせる。
- 差し押さえのリスクがなくなる。
- デメリット
- 将来受け取る年金額が減額される。
- 例えば、全額免除を受けた期間の年金額は、保険料を全額納付した場合の2分の1(平成21年3月分までは3分の1)で計算されます。
- 将来受け取る年金額が減額される。
とはいえ、未納にして年金額がゼロになるリスクを考えれば、免除を受けておく方が圧倒的に有利です。減ってしまった年金額は、後述する「追納制度」で回復させることも可能です。
50歳未満なら「納付猶予制度」も選択肢に
20歳以上50歳未満の方であれば、「納付猶予制度」という選択肢もあります。これは、文字通り保険料の支払いを「猶予(先延ばし)」してもらう制度です。
保険料の支払いを10年間先延ばしにする制度
納付猶予制度は、本人・配偶者の前年所得が一定額以下の場合に申請できます(世帯主の所得は問われません)。承認されると、その期間の保険料の支払いが猶予されます。
免除制度と同様に、猶予を受けた期間も「年金の受給資格期間」にカウントされるため、将来年金が受け取れなくなる事態を防げます。また、障害年金や遺族年金の納付要件にも含まれます。
納付猶予と免除の大きな違い
納付猶予と免除の最大の違いは、将来の年金額への反映です。
- 免除制度:減額はされるが、一定額(全額免除なら1/2)が年金額に反映される。
- 納付猶予制度:年金額には1円も反映されない。
猶予はあくまで支払いを先延ばしにしているだけなので、10年以内に「追納(後払い)」をしない限り、その期間は年金額の計算上「カラ期間」扱いとなります。
免除・納付猶予の申請手続き【完全ガイド】
手続きは決して難しくありません。必要なものを準備して、正しい場所で申請しましょう。
どこで手続きする?
申請は、お住まいの市区町村役場の国民年金担当窓口、または最寄りの年金事務所で行います。
必要な持ち物リスト
手続きに行く前に、以下のものを準備しておくとスムーズです。
- 本人確認書類
- マイナンバーカード、運転免許証、パスポートなど
- 基礎年金番号がわかるもの
- 年金手帳、基礎年金番号通知書、納付書など
- ※マイナンバーカードがあれば不要な場合もあります。
- 失業したことを証明する書類(特例免除を申請する場合)
- 雇用保険受給資格者証のコピー
- 離職票のコピー
- 雇用保険被保険者資格喪失確認通知書のコピー など
申請書の入手方法と提出
「国民年金保険料免除・納付猶予申請書」は、役所の窓口で受け取るか、日本年金機構のホームページからダウンロードして印刷することも可能です。
必要事項を記入し、上記の添付書類とともに窓口に提出します。窓口に行く時間がない場合は、郵送での提出も可能です。もし不安な点があれば、年金事務所や「ねんきんダイヤル」に電話で問い合わせてみましょう。申請が承認されると、後日、日本年金機構から承認通知書が届きます。
将来の年金を増やす「追納制度」のメリット
免除や猶予で当面の危機を乗り越えた後、生活に余裕が出てきたら「追納」を検討しましょう。追納とは、免除・猶予された保険料を後から納めることで、将来の年金額を増やすことができる制度です。
追納すれば年金額を満額に近づけられる
追納ができるのは、免除・猶予の承認を受けた月から10年以内の期間に限られます。この期間内に追納することで、その期間は「保険料を全額納付した」ことになり、老齢基礎年金を満額に近づけることができます。
元のテキストの試算によると、1年間分の保険料を追納した場合、将来の年金額は以下のようにアップします。
- 全額免除期間を追納 → 年金額が年間で約1万円アップ
- 納付猶予期間を追納 → 年金額が年間で約2万円アップ
追納は、将来の自分への確実な仕送りと言えるでしょう。
社会保険料控除で節税効果も
追納には、年金額を増やす以外にも大きなメリットがあります。それは「節税効果」です。
追納した保険料は、その全額が「社会保険料控除」の対象となり、年末調整や確定申告で申告することで、その年の所得税や翌年の住民税が安くなります。収入が安定し、税金を納めるようになったタイミングで追納すれば、年金を増やしつつ、同時に節税もできるという一石二鳥の効果が得られるのです。
まとめ:失業中の国民年金は「まず申請」が鉄則
失業という予期せぬ事態に直面したとき、国民年金の支払いは大きな悩みの種となります。しかし、絶対にやってはいけないのは「未納のまま放置」することです。
この記事で解説したポイントを最後におさらいしましょう。
- 未納は絶対に避ける:将来の年金がゼロになる、万が一の保障が受けられない、財産を差し押さえられるという3大リスクがあります。
- 失業したら「特例免除」を申請する:前年の所得に関係なく、保険料が免除される可能性が非常に高いです。
- 手続きは簡単:必要書類を準備して、市区町村の窓口か年金事務所に行くだけです。
- 将来の不安は「追納」で解消:生活が安定してから、10年以内に追納すれば年金額を満額に近づけることができ、節税効果もあります。
支払いが難しいからといって、一人で抱え込む必要はありません。国が用意してくれている制度を正しく利用し、まずは目の前の生活を立て直すことに集中しましょう。そして、将来の安心のために、今日から行動を起こしてみてください。まずはお住まいの役所の窓口に相談することから始めてみませんか。