継続雇用制度がある会社で定年退職するデメリットは?自己都合扱いと給付制限のリスクを解説

60歳の定年を迎えるにあたり、会社に継続雇用制度(再雇用・勤務延長)があるにもかかわらず、それを使わずそのまま退職しようと考えている方は少なくありません。しかし継続雇用を利用せずに退職すると、失業保険(基本手当)の受給開始が遅れたり、高年齢雇用継続給付などのメリットを失ったりする可能性があります。この記事では、継続雇用制度がある会社をあえて辞めることで生じうる具体的なデメリットと、損を避けるために退職前に確認すべきポイントを解説します。

結論:継続雇用制度を使わず定年退職すると生じうる主なデメリット

まず結論からお伝えすると、継続雇用制度がある会社で定年退職(=継続雇用を利用しない選択)をした場合、次のようなデメリットが生じる可能性があります。

デメリット 内容
離職理由の判定リスク 本人の意思による離職とみなされ、自己都合扱いになる場合がある
給付制限の可能性 自己都合扱いになると基本手当の受給開始が原則2ヶ月遅れる場合がある
継続雇用時給付の喪失 高年齢雇用継続基本給付金など、働き続けていればもらえた給付を受けられない
社会保険切替の負担 健康保険の任意継続・国民健康保険への切替で一時的にコストが増える場合がある
退職金・賃金の差 会社規定によっては継続雇用選択時と退職時で退職金の計算が変わる場合がある

ただし、これらは「必ず」起こるわけではなく、会社の就業規則の内容や離職票に記載される離職理由コード、本人の退職の経緯によって結果が変わります。順番に見ていきましょう。

継続雇用制度とは何か(基礎知識)

高年齢者雇用安定法と65歳までの雇用確保義務

継続雇用制度は、高年齢者雇用安定法に基づき、企業が60歳定年後も希望する社員を65歳まで雇用し続けることを義務づけた制度です。企業は「定年の廃止」「定年延長」「継続雇用制度の導入」のいずれかで対応する必要があり、実務上は継続雇用制度(再雇用・勤務延長)を採用する企業が多数を占めています。

さらに2021年4月からは、70歳までの就業確保が企業の努力義務として追加されています。つまり、60歳で定年を迎える方の多くは、本来であれば65歳(場合によっては70歳)まで働き続ける選択肢を持っていることになります。

再雇用制度と勤務延長制度の違い

継続雇用制度には大きく2つの方式があります。

方式 内容 雇用契約
再雇用制度 定年でいったん退職し、新たに契約を結び直す 一度リセットされる(有期契約が多い)
勤務延長制度 定年に達しても退職せず、そのまま雇用を継続 継続(待遇も定年前とほぼ同じ場合が多い)

再雇用制度の場合、形式上は「一度退職」している点に注意が必要です。この「一度退職」のタイミングで雇用保険上の扱いがどうなるかが、後述するデメリットの入口になります。

継続雇用を使わず定年退職するとどうなる?離職理由の判定

「定年退職」と「自己都合退職」の境界線

ハローワークに提出される離職票には、離職理由コードが記載されます。定年による離職は通常「定年」コードで処理され、会社都合に近い扱い(給付制限なし)を受けることが一般的とされています。

ところが、会社に継続雇用制度があるのに本人が「継続雇用を希望しない」と申し出て退職した場合、ハローワークや会社によっては「本人の意思による離職」として扱われ、通常の自己都合退職に近い整理がされる可能性があります。これは、継続雇用制度がある会社では「希望すれば65歳まで働ける環境があったのに、本人の意思で辞めた」と解釈されうるためです。

自己都合扱いになった場合の給付制限リスク

自己都合退職と判定されると、基本手当(失業保険)の受給には次のような制限がかかる場合があります。

  • 7日間の待期期間(これは会社都合でも自己都合でも共通)
  • そのうえで原則2ヶ月間の給付制限(過去5年以内に3回以上自己都合退職をしている場合は3ヶ月)

会社都合であればこの給付制限はかからないため、「継続雇用を使わず退職した結果、自己都合扱いとなり給付開始が2ヶ月以上遅れた」というのは、実際に起こりうるデメリットのひとつです。

会社の就業規則・退職届の書き方で変わる実務対応

この判定は、法律で一律に決まっているわけではなく、会社が離職票にどう記載するか、退職届にどう書くかによって変わる部分があります。例えば「一身上の都合により退職します」という退職届の文言だけが残ると、実態が定年であっても自己都合退職として処理されるリスクが上がります。退職の経緯(継続雇用を希望しなかった理由を含む)を人事担当者と事前にすり合わせておくことが重要です。

デメリット1:失業保険(基本手当)の受給開始が遅れる可能性

給付制限がつくケースの具体例

  • 継続雇用の案内を受けたが「もう働きたくない」という理由で退職届を出した → 自己都合扱いのリスクが高い
  • 継続雇用の条件(給与・勤務地・業務内容)に納得できず退職した → ケースにより「正当な理由のある自己都合」として給付制限なしと判断される可能性がある
  • 会社側が継続雇用を拒否した(本人は希望していた) → 会社都合に近い扱いとなる可能性がある

特定理由離職者として認定されるための条件

雇用保険には「特定理由離職者」という区分があり、やむを得ない事情で離職した場合は給付制限がかからないよう配慮されています。継続雇用の条件が本人にとって受け入れがたい内容(例:大幅な賃金カット、勤務地の大幅変更など)だった場合は、この特定理由離職者に該当する可能性があるため、退職前にハローワークへ相談しておくと安心です。

デメリット2:高年齢雇用継続給付など継続雇用時のメリットを失う

高年齢雇用継続基本給付金の仕組み

継続雇用を選んで60歳以降も働き続けると、60歳到達時点と比べて賃金が大きく下がった場合に「高年齢雇用継続基本給付金」を受け取れる場合があります。これは雇用保険から支給されるもので、賃金低下を補う役割を持っています。

完全に退職してしまうと、この給付金の対象にはなりません。継続雇用で得られたはずの収入補填を失うという意味で、これは見落としがちなデメリットです。

継続雇用なら受け取れたはずの賃金・給付の喪失額

継続雇用後の賃金が仮に60歳到達時より下がったとしても、「賃金+高年齢雇用継続給付金」の合計で見れば、完全リタイアして失業保険のみで過ごすより収入が安定するケースは少なくありません。退職を決める前に、継続雇用した場合の「賃金+給付金」の見込み額と、退職した場合の「失業保険のみ」の見込み額を比較しておくことをおすすめします。

デメリット3:退職金・社会保険・年金の切り替えで生じる負担

退職金の算定方法が会社規定で変わる場合

会社によっては、継続雇用(再雇用)を選んだ場合と完全退職を選んだ場合で、退職金の算定基準が異なることがあります。再雇用制度では「定年時にいったん退職金を清算する」企業が多いため、退職金そのものの額は変わらないケースが一般的ですが、会社独自の規定で差が出ることもあるため、人事に事前確認しておきましょう。

健康保険の切り替え(任意継続 or 国保)とコストの違い

完全退職すると、会社の健康保険からは原則外れます。選択肢は主に次の2つです。

選択肢 概要
任意継続健康保険 退職日の翌日から20日以内に申請。最長2年間、在職時の保険と同じ内容を利用できるが、保険料は事業主負担分も自己負担になる
国民健康保険 自治体の国保に加入。非自発的失業者向けの軽減制度があるが、定年退職はこの軽減制度の対象外となる場合が多い

継続雇用を選んで働き続ければ、会社の健康保険にそのまま加入し続けられるため、この切り替えの手間とコストが発生しません。

年金との調整—在職老齢年金が止まる/止まらない

継続雇用で働きながら年金(特別支給の老齢厚生年金など)を受け取る場合、賃金と年金の合計額が一定の基準を超えると年金が一部または全額停止される「在職老齢年金」の仕組みが適用される場合があります。逆に完全退職すれば、この調整を受けずに年金を全額受け取れる可能性があります。これは退職を選ぶメリットにもなり得るため、年金事務所やハローワークで自分の年金額と見込み賃金を踏まえたシミュレーションをしておくと判断しやすくなります。

デメリットを抑えるためにやっておくべきこと

退職前にハローワーク・会社の人事に確認すべきポイント

  • 退職後の離職理由がどのコードで処理される予定か(人事に確認)
  • 継続雇用を希望しなかった理由を退職届や退職面談の記録にどう残すか
  • 自分の場合、給付制限がつく可能性があるかをハローワークの窓口で事前相談する

離職票の離職理由欄をチェックする

退職後に届く離職票には、離職理由とその具体的事情が記載されています。内容に実態と異なる記載(例:本来は定年なのに「自己都合」とだけ書かれている)があれば、ハローワークに異議を申し出ることができます。離職票を受け取ったら、提出前に必ず内容を確認しましょう。

継続雇用を一度利用してから退職するという選択肢

「継続雇用の条件に不満はあるが、いきなり完全退職するのは不安」という場合は、一度継続雇用(再雇用)を利用してから、改めて自己都合退職するという選択肢もあります。この場合でも自己都合退職であることに変わりはありませんが、継続雇用中に受け取れる賃金や高年齢雇用継続給付金を一定期間確保しながら、その後の生活設計を立て直す時間を作れるという利点があります。

よくある質問(FAQ)

Q1. 継続雇用制度を使わず定年退職すると、失業保険は必ず自己都合扱いになりますか?

必ずそうなるとは限りません。定年という事実自体は会社側の制度に基づくものであり、本人の意思だけで一律に自己都合扱いになるわけではないとされています。ただし、継続雇用の希望有無や退職届の記載内容によって判定が変わる可能性があるため、退職前にハローワークへ確認しておくと安心です。

Q2. 自己都合扱いになった場合、給付制限はどのくらいの期間ですか?

一般的には原則2ヶ月間の給付制限がかかるとされています。過去5年以内に自己都合退職を複数回している場合は3ヶ月になる場合があります。正確な適用条件はハローワークでの確認が必要です。

Q3. 継続雇用の条件(給与が大幅に下がる等)に納得できず退職した場合も自己都合ですか?

このようなケースは「正当な理由のある自己都合退職(特定理由離職者)」として、給付制限なしと判断される可能性があります。条件の変更内容を記録として残しておき、ハローワークの窓口で相談することをおすすめします。

Q4. 継続雇用を使わず退職すると、年金はどう変わりますか?

継続雇用で働き続けると賃金と年金の合計額によって年金が一部停止される在職老齢年金の調整を受ける場合がありますが、完全退職すればこの調整がなくなり年金を全額受け取れる可能性があります。これは退職を選ぶことでのメリットにもなり得るため、年金事務所での見込み額確認をおすすめします。

Q5. 高年齢雇用継続給付金は、退職後にもらえますか?

高年齢雇用継続給付金は、60歳以降も雇用され賃金を受け取っていることが前提の給付です。完全に退職してしまうと対象外になります。

Q6. 国民健康保険の軽減制度は定年退職でも使えますか?

国民健康保険には非自発的失業者向けの軽減制度がありますが、対象となる離職理由コードに「定年」が含まれるかどうかはケースによって異なるとされています。自治体の国保窓口で自分の離職理由コードを確認し、軽減対象か問い合わせることをおすすめします。

Q7. 退職届にはどう書けば不利にならずに済みますか?

「定年により退職します」といった、定年であることが明確にわかる表現にしておくことが望ましいとされています。「一身上の都合」などの表現のみだと、実態と異なる離職理由として処理されるリスクがあるため、退職前に人事担当者と文言を確認しておくと安心です。

まとめ

  • 継続雇用制度がある会社で定年退職(継続雇用を使わない選択)をすると、離職理由が自己都合扱いとなり、失業保険の給付開始が原則2ヶ月遅れるリスクがある
  • 継続雇用を選んでいれば受け取れたはずの高年齢雇用継続基本給付金などの給付を失う
  • 健康保険の切り替え(任意継続か国民健康保険か)で一時的にコストが増える可能性がある
  • 一方で、完全退職すれば在職老齢年金の調整を受けずに年金を全額受け取れる可能性があるなど、デメリットだけでなくメリットもある
  • 退職前には、離職理由の記載内容・給付制限の有無・年金への影響をハローワークや会社人事、年金事務所でそれぞれ確認しておくことが、損を避ける最も確実な方法です

この記事の内容は一般的な制度理解に基づくものです。最新の制度詳細や自分のケースへの適用については、お近くのハローワークまたは厚生労働省の公式情報でご確認ください。