65歳以上で退職したら健康保険はどう選ぶ?4つの選択肢を保険料・手続きで徹底比較

65歳を過ぎて退職するとき、多くの方が戸惑うのが「健康保険どうしよう?」という問題です。現役世代と違って年金収入があったり、もうすぐ後期高齢者医療制度に移ったりと、判断材料が複雑になります。

この記事では、65歳以上で退職した方が選べる4つの健康保険の選択肢を、保険料の目安・手続きの期限・メリット/デメリットの観点から整理します。読み終えるころには「自分はどれを選ぶべきか」の方向性が見えるはずです。74歳までの方も、75歳到達直前の方も、まずは全体像から確認していきましょう。

結論:65歳以上の退職時に選べる健康保険は4つ

65歳以上74歳までの方が退職した場合、健康保険の選択肢は次の4つです。

選択肢 加入対象 加入期間 保険料の目安
任意継続被保険者 退職前の健保に2か月以上加入 最長2年 退職時の標準報酬月額ベース(上限あり)
国民健康保険(国保) 上記以外の方 75歳になるまで 前年所得・世帯人数で算定
家族の健康保険の被扶養者 年収180万円未満などの条件あり 75歳になるまで 本人負担なし
特例退職者医療制度 特定の健保組合の長期加入者 75歳になるまで 一般的に任意継続より安め

ポイントは75歳の誕生日で全員が後期高齢者医療制度に自動移行することです。それまでの「つなぎ」として、どの保険を選ぶかを考えます。

そして、いずれの選択肢でも退職日の翌日から14日〜20日以内に手続きが必要です。期限を過ぎると無保険期間が生まれたり、選びたい制度を選べなくなったりするので、退職前から準備しておくのが安全です。

選択肢1:任意継続被保険者制度(最長2年)

任意継続とは、退職前に加入していた会社の健康保険(協会けんぽや健保組合)に、退職後も最長2年間引き続き加入できる制度です。

加入できる人の条件

  • 退職日までに継続して2か月以上、その健保に加入していた
  • 退職日の翌日から20日以内に申請する

協会けんぽなら全国健康保険協会の都道府県支部、健保組合なら所属していた組合に申請します。1日でも遅れると原則受け付けてもらえないため、退職前に申請書を取り寄せておくのがおすすめです。

保険料の計算方法

任意継続の保険料は、退職時の標準報酬月額 または その健保の平均標準報酬月額 のいずれか低い方で計算されます。会社負担分がなくなるため、在職中の給与天引き額のおおむね2倍が目安です。

ただし、健保ごとに保険料の上限が設けられており、現役時代の収入が高かった方ほど任意継続のほうがお得になりやすい傾向があります。

メリットとデメリット

メリット

  • 退職前と同じ健保を継続できるので、家族の扶養も維持できる
  • 健保組合独自の付加給付(高額療養費の上乗せなど)が受けられるケースもある
  • 健保組合の保養施設・人間ドック補助などのサービスを引き続き利用できる場合がある

デメリット

  • 全額自己負担になるため、在職中より保険料負担が大きく感じやすい
  • 一度脱退すると再加入できない(ただし2022年からは申請による任意脱退が可能に)
  • 最長2年で必ず終了する

選択肢2:国民健康保険(国保)に加入する

任意継続を選ばない(または条件を満たさない)場合、お住まいの市区町村が運営する国民健康保険に加入することになります。

手続きの流れ

退職日の翌日から14日以内に、住民票のある市区町村役場の国保担当窓口で手続きします。

必要書類の一例

  • 健康保険資格喪失証明書(前の会社または健保から発行)
  • マイナンバーカードまたは通知カード
  • 本人確認書類
  • 印鑑(自治体による)

退職証明書や離職票でも代用できる場合がありますが、自治体により取り扱いが異なるため事前に確認してください。

保険料はどう決まる?

国保の保険料は、前年の所得世帯の加入人数をもとに、市区町村ごとに計算されます。主な構成は次の3要素です。

区分 内容
所得割 前年の所得に応じて課税
均等割 加入者1人あたりの定額
平等割 世帯あたりの定額(自治体による)

退職した年は前年(在職中)の所得で計算されるため、想定より高くなることが多いです。翌年度は退職後の所得で計算し直されるので、保険料は通常下がります。

65歳以上ならではの注意点:介護保険料との関係

65歳以上は介護保険の第1号被保険者となり、介護保険料は原則として年金から特別徴収されます。つまり、国保の保険料からは介護分が外れます。

「国保」と「介護保険」を別々に払う形になるので、家計の予算組みのときは両方を合算して考えましょう。

軽減・減免制度の活用

世帯の所得が一定以下の場合、均等割・平等割の7割・5割・2割軽減が自動的に適用されます。さらに、退職や災害などで前年所得から大きく下がった場合は、申請による減免制度もあります。

退職後に保険料の通知が届いて「高すぎる」と感じたら、まずは役所の国保窓口に相談してみてください。

選択肢3:家族の健康保険の被扶養者になる

配偶者・子・孫など、健康保険に加入している家族がいる場合、その被扶養者になる選択肢があります。本人の保険料負担はゼロです。

扶養に入れる収入要件

被扶養者になるには、いくつかの収入要件をクリアする必要があります。

要件 内容
年収 180万円未満(60歳以上または障害者の場合)
同居 年収が扶養者(家族)の収入の1/2未満
別居 年収が扶養者からの仕送り額未満

ここで注意したいのは「年収」に年金が含まれることです。老齢年金・遺族年金・障害年金などの公的年金は収入とみなされます。

失業給付(基本手当)も収入扱い

退職後に雇用保険の基本手当(失業手当)を受給する場合、基本手当の日額が一定額以上だと扶養に入れません

具体的には、60歳以上で日額4,932円超になると年収換算で180万円超となり、扶養から外れます(金額は年度・健保により異なる場合あり)。

「年金+失業手当+その他収入」で180万円を超える場合は、受給期間中だけ国保に入って、終了後に扶養に戻るという2段階作戦も選択肢に入ります。

メリットとデメリット

メリット

  • 本人の保険料負担なし
  • 手続きは家族の勤務先経由で完結

デメリット

  • 収入要件を満たさない場合は使えない
  • 扶養者(家族)が退職・転職すると一緒に扶養から外れる
  • 健保組合により独自の認定基準があり、認定されないケースもある

選択肢4:特例退職者医療制度(該当者のみ)

あまり知られていませんが、特例退職者医療制度という制度もあります。これは、厚生労働大臣の認可を受けた一部の健保組合(特定健保)が運営する制度です。

加入条件

  • 加入している健保組合が特定健保である
  • 厚生年金の被保険者期間が20年以上、または40歳以降に10年以上
  • 老齢厚生年金の受給権がある
  • 75歳になるまで継続加入可能

該当する方は限られますが、保険料が任意継続より安く、健保組合独自の付加給付も受けられることが多いため、対象者にとっては有力な選択肢です。

確認方法

退職前に、所属している健保組合に「うちは特定健保ですか?」と問い合わせてみてください。対象者には案内が届くケースが多いですが、見落とさないよう自分から確認するのが安全です。

4つの選択肢、どう選ぶ?タイプ別の判断軸

「結局どれがいいの?」という疑問に対して、判断のフローチャートを示します。

ケース1:扶養者になれる家族がいる

まずは「家族の扶養」を検討。本人負担ゼロは強い。 ただし年金+失業手当で年収180万円を超えるなら、その期間は国保 or 任意継続を選ぶ。

ケース2:特定健保の長期加入者

「特例退職者医療制度」が第一候補。保険料も付加給付もメリット大。

ケース3:上記に該当せず、退職前の給与が高かった

「任意継続」が安くなることが多い。健保の上限保険料が国保より低いケースが多いため。 退職前に「任意継続だといくら?」と健保に試算してもらう。

ケース4:上記に該当せず、退職前の給与が中〜低めだった

「国保」が安くなる可能性大。退職翌年は前年所得が下がるためさらに安くなる。 役所で試算してもらえる。

必ずやるべき:両方の見積もりを比較

任意継続と国保では、保険料が月数千円〜数万円違うことが珍しくありません。退職前に 「任意継続の月額(健保に問い合わせ)」と「国保の月額(役所に問い合わせ)」の両方を試算して、安いほう・サービス内容を比較するのが鉄則です。

75歳になったら全員が後期高齢者医療制度へ

どの選択肢を選んでも、75歳の誕生日当日に後期高齢者医療制度に自動移行します。手続きは不要で、新しい保険証(資格確認書)が届きます。

後期高齢者医療制度の特徴は次のとおりです。

  • 保険料は個人単位(世帯単位ではない)
  • 都道府県ごとの広域連合が運営
  • 保険料は年金から特別徴収が原則
  • 窓口負担は所得に応じて1割・2割・3割

つまり、65歳以上で退職してから75歳までの「つなぎ期間」をどの保険で乗り切るか、というのが今回のテーマでもあるわけです。

退職前にやっておくべき準備リスト

無保険期間や手続きの遅れを防ぐため、退職が決まったら次の準備を始めましょう。

退職1か月前まで

  • [ ] 加入中の健保に「任意継続の保険料はいくら?」と試算依頼
  • [ ] 役所の国保窓口に「国保ならいくら?」と試算依頼
  • [ ] 家族の扶養に入れるか、家族の勤務先で確認
  • [ ] 特定健保かどうか健保組合に確認

退職2週間前まで

  • [ ] 4つの選択肢を比較して方針を決める
  • [ ] 任意継続を選ぶなら申請書を入手しておく
  • [ ] 必要書類(マイナンバーカード、印鑑など)を準備

退職後14日以内

  • [ ] 健康保険資格喪失証明書を会社から受け取る
  • [ ] 国保なら役所で加入手続き
  • [ ] 任意継続なら20日以内に申請

退職後すぐ〜

  • [ ] 新しい保険証(または資格確認書)が届くまでの間も、医療機関では「資格喪失証明書」で対応可能な場合あり
  • [ ] マイナンバーカードを保険証として登録している場合は引き続き利用可能

よくある質問(FAQ)

Q1. 任意継続と国保、どっちが安いかどうやって判断する?

A. 一概にどちらが安いとは言えません。退職前の給与が高かった人ほど任意継続が安くなる傾向があります(健保の上限保険料があるため)。逆に給与が中〜低めだった人は国保のほうが安くなりやすいです。

退職前に健保(任意継続)と役所(国保)の両方で試算してもらい、月額・年額の総支出で比較してください。試算は無料で、所要時間も数分〜数日程度です。

Q2. 任意継続中に国保へ切り替えることはできる?

A. 以前は「保険料を払い忘れる」以外に任意脱退の方法がありませんでしたが、2022年1月の改正以降は申請による任意脱退が可能になりました。

ただし、健保によって細かい運用が異なるため、切り替えを検討する場合は事前に健保に問い合わせてください。

Q3. 失業手当をもらいながら扶養に入ることはできる?

A. 基本手当の日額による判定になります。60歳以上で日額4,932円超だと年収換算で180万円を超え、扶養に入れません(基準は健保により異なる場合あり)。

実務的には「失業手当受給中は国保 → 受給終了後に扶養に切り替え」という2段階運用がよく行われます。

Q4. 65歳以降に再就職した場合の健康保険は?

A. 再就職先で社会保険(健康保険・厚生年金)に加入する場合は、新しい職場の健康保険に切り替わります。任意継続や国保からの脱退手続きが必要です。

短時間勤務などで社会保険に入らない場合は、引き続き任意継続・国保などを継続します。

Q5. 退職してから手続きを忘れていた。今からでも間に合う?

A. 任意継続は20日を1日でも過ぎると原則アウトです(やむを得ない事情がある場合のみ例外あり)。

国保は14日の期限を過ぎても遡って加入できますが、保険料は退職翌日から遡って請求され、その間の医療費を全額自己負担で支払っていた場合の払い戻しも複雑になります。気づいた時点で速やかに役所で手続きしてください。

Q6. 高額療養費制度は65歳以上でも使える?

A. はい、どの健康保険でも高額療養費制度は利用できます。70歳以上は自己負担限度額が低めに設定されている区分があり、医療費負担はさらに抑えられます。

入院や手術が予定されている場合は、事前に限度額適用認定証を申請しておくと窓口負担を抑えられます(マイナ保険証なら自動適用)。

Q7. マイナ保険証は退職後も使える?

A. 健康保険の種類が変わっても、マイナンバーカード自体は変わりません。新しい保険(任意継続・国保など)に加入すれば、情報が連携され引き続きマイナ保険証として使えます

ただし、加入手続きから情報連携まで数日〜数週間かかる場合があるため、その間は紙の保険証や資格確認書を使うことになります。

Q8. 配偶者がまだ働いている場合、家族の扶養に入るのが一番得?

A. 本人負担ゼロなのは大きなメリットですが、注意点もあります。

  • 扶養者(配偶者)の健保組合の認定基準に合うか
  • 失業手当・年金との合算で年収要件を超えないか
  • 扶養者が退職・転職したら一緒に外れる

これらをクリアできるなら扶養が有利。クリアできない期間は任意継続や国保を組み合わせる「ハイブリッド作戦」も有効です。

まとめ:4つの選択肢を比較して、自分に合うものを選ぼう

65歳以上で退職する際の健康保険は、次の4つから選びます。

  • 任意継続:最長2年、退職前の健保を継続。給与が高かった人に有利な場合あり
  • 国民健康保険:市区町村が運営。中〜低所得者に有利な場合あり
  • 家族の扶養:本人負担ゼロ。収入要件のクリアが条件
  • 特例退職者医療制度:特定健保の長期加入者向け。該当者には有力な選択肢

判断の決め手は保険料の比較家族構成・収入状況。退職前に必ず任意継続と国保の両方で試算してもらい、扶養に入れる家族がいるなら扶養も候補に加えて検討しましょう。

そして忘れてはいけないのが手続き期限です。

  • 任意継続:退職翌日から20日以内
  • 国保:退職翌日から14日以内
  • 扶養:家族の勤務先経由で速やかに

期限を過ぎると無保険期間が生まれたり、選びたい制度を選べなくなったりします。退職が決まった時点で、この記事のチェックリストを使って早めに準備を始めてください。

75歳になれば後期高齢者医療制度に自動移行します。それまでの「つなぎ期間」を賢く乗り切って、安心して新しいライフステージに進みましょう。

最新の保険料率・要件は年度や自治体・健保組合により変わるため、最終的にはご自身が加入する健保・お住まいの市区町村役場で確認することを強くおすすめします。