65歳以上で2つの職場を掛け持ちしながら働いている方の中には、「片方の仕事を辞めたら高年齢求職者給付金はどう計算されるのだろう」と疑問に思う方が増えています。結論から言うと、複数の勤務先で雇用保険に加入している「マルチ高年齢被保険者」の場合、賃金日額の算出方法が通常のケースと異なり、両方の勤務先の賃金が関係してくる場合があります。この記事では、制度の仕組みから具体的な計算シミュレーション、申請手続きまでを順を追って解説します。
結論:複数勤務先の賃金が受給額に影響するケースがある
複数の事業所で同時に雇用保険(高年齢被保険者)に加入している場合、高年齢求職者給付金の算定基礎となる賃金日額は、原則として保険に加入していた勤務先の賃金を基に計算されます。2つの勤務先両方で加入している「マルチ高年齢被保険者」が離職した場合、どちらの勤務先を辞めたか、両方を辞めたかによって計算方法や受給の可否が変わる点に注意が必要です。
以下では、まず複数勤務先での雇用保険加入の前提となる「マルチジョブホルダー制度」を整理したうえで、受給額の計算方法を具体的な数字で見ていきます。
マルチジョブホルダー制度とは
対象者の条件
マルチジョブホルダー制度は、65歳以上で複数の事業所に雇用されている方を対象にした雇用保険の特例です。1つの事業所だけでは雇用保険の加入要件(通常は1週間の所定労働時間20時間以上)を満たさない方でも、2つの事業所の労働時間を合算して申出により加入できる仕組みとして設けられています。
一般的な加入要件の目安は次の通りです。
| 項目 | 通常の雇用保険 | マルチジョブホルダー制度 |
|---|---|---|
| 対象年齢 | 制限なし | 65歳以上 |
| 事業所数 | 1つの事業所で加入 | 2つの事業所の労働時間を合算 |
| 1事業所あたりの労働時間 | 週20時間以上 | 週5時間以上20時間未満 |
| 合計労働時間 | – | 週20時間以上 |
| 加入方法 | 事業主が手続き | 本人がハローワークに申出 |
65歳以降だけの特例という点に注意
この制度はあくまで65歳以上の高年齢被保険者に限った特例であり、64歳以下で複数の勤務先を掛け持ちしている方には適用されません。64歳以下の方は、通常どおり主たる勤務先(労働時間要件を満たす1つの事業所)でのみ雇用保険に加入する形になります。この年齢要件を誤解しているケースが多いため、まず自分がマルチジョブホルダーとして加入しているかどうかを雇用保険被保険者証や「資格取得等確認通知書」で確認しておくことをおすすめします。
賃金日額の計算方法(複数事業所分の賃金の扱い)
賃金日額の基本計算式
高年齢求職者給付金の金額は、まず「賃金日額」を算出し、そこから「基本手当日額」を計算するという2段階の手順で求めます。賃金日額は、原則として離職前6か月間に支払われた賃金の総額を180で割った金額です。
マルチ高年齢被保険者でない通常のケースでは、この6か月分の賃金は1つの事業所の賃金のみで計算されます。
複数事業所の賃金を合算するケース
マルチ高年齢被保険者が2つの勤務先の両方を離職した場合は、保険の対象となっていた2つの事業所それぞれの賃金を合算し、その合計額を基に賃金日額を算出するとされています。つまり、A社で月8万円、B社で月6万円の賃金を得ていた場合、合計14万円を基礎として6か月分の賃金総額を計算する、というイメージです。
片方の勤務先だけ退職した場合
一方で、2つの勤務先のうち片方だけを離職した場合は、原則として高年齢求職者給付金はすぐには支給されません。マルチ高年齢被保険者としての資格を維持したまま、もう一方の勤務先での就労を続けている状態とみなされるためです。両方の勤務先を離職して初めて受給資格の判定が行われる、という整理になっている点は見落としやすいポイントです。
ただし、片方の離職によってマルチ高年齢被保険者としての要件(合計週20時間以上など)を満たさなくなった場合の扱いは個別判断となるケースもあるため、該当しそうな方はハローワークの窓口で早めに相談することをおすすめします。
基本手当日額・受給額の計算
給付率と上限・下限額
賃金日額が決まったら、そこに給付率(おおむね50%〜80%、賃金水準が低いほど給付率が高くなる仕組み)を掛けて基本手当日額を求めます。賃金日額には上限額・下限額が年度ごとに定められており、実際の賃金が高くても給付率はその分低く抑えられる設計になっています。
所定給付日数(30日分・50日分)
高年齢求職者給付金は、失業手当(基本手当)のように複数回に分けて支給されるのではなく、一時金として一括支給される点が特徴です。支給額は次のように、被保険者であった期間に応じて決まります。
| 被保険者期間 | 支給額 |
|---|---|
| 1年未満 | 基本手当日額の30日分 |
| 1年以上 | 基本手当日額の50日分 |
マルチ高年齢被保険者の場合、この「被保険者であった期間」は2つの事業所での加入期間を通算して判定されるのが基本的な考え方です。片方の事業所での加入期間が短くても、もう一方との通算で1年以上になれば50日分の対象になる可能性があります。
シミュレーション:具体的な受給額の例
ケース1:2つの勤務先の賃金がほぼ同額の場合
A社で月額賃金8万円、B社で月額賃金8万円、合計月16万円を得ていたケースを考えます。6か月分の賃金総額は96万円となり、賃金日額はおよそ5,333円です。ここに給付率(仮に80%程度)を掛けると、基本手当日額はおよそ4,200円前後となります。被保険者期間が1年以上であれば、受給額は基本手当日額×50日分で、おおよそ21万円程度が目安になります。
ケース2:片方が主、片方が副業的な場合
A社で月額賃金15万円、B社で月額賃金3万円という組み合わせの場合も、両方離職すれば合計賃金(月18万円)を基に賃金日額を算出します。この場合、賃金水準が上がることで給付率の区分が変わり、ケース1と比べて給付率がやや下がる可能性がある点に注意が必要です。賃金が高いからといって単純に受給額が比例して増えるわけではありません。
ケース3:片方だけ退職したケース
A社を退職し、B社での就労とマルチ高年齢被保険者としての加入要件を維持している場合は、前述の通りこの時点では高年齢求職者給付金は支給されません。その後B社も退職したタイミングで、A社・B社両方の賃金実績を踏まえた判定が行われることになります。退職のタイミングを分けて考えている方は、この「両方離職して初めて判定」という点を踏まえてスケジュールを検討する必要があります。
申請手続きの流れ
必要書類
高年齢求職者給付金の申請には、一般的に以下の書類が必要とされています。マルチ高年齢被保険者の場合は、2つの事業所分の離職票が必要になる点が通常のケースと異なります。
1. 雇用保険被保険者離職票(A社・B社それぞれ分) 2. 雇用保険被保険者証 3. マイナンバーカードまたは個人番号確認書類 4. 本人名義の預金通帳またはキャッシュカード 5. 写真(必要に応じて)
申請窓口とタイミング
申請先は、居住地を管轄するハローワークです。離職日の翌日から起算して1年以内という受給期限が設けられているため、片方の離職から間を置いてもう片方を離職する予定がある方は、最終的な離職日を基準にスケジュールを組むとよいでしょう。
マイナンバーカード等の持ち物
窓口での手続きをスムーズに進めるため、マイナンバーカードに加えて本人確認書類(運転免許証など)も合わせて持参すると安心です。マルチ高年齢被保険者の場合は通常のケースより確認事項が多くなる傾向があるため、事前に管轄のハローワークへ電話で必要書類を確認しておくことをおすすめします。
間違えやすいポイント・注意点
二重受給はできない
2つの勤務先の離職票をそれぞれ別のタイミングで別々に提出し、2回に分けて給付金を受け取れると誤解しているケースがありますが、これはできません。あくまで両方の勤務先の実績を合算した1回の一時金としての支給になります。
雇用保険の資格喪失手続きの重複
片方の勤務先を退職した際、事業主側が資格喪失の手続きを通常の被保険者と同じ要領で進めてしまい、マルチ高年齢被保険者としての特例の扱いが事業所側に正しく伝わっていないケースも見られます。退職時には「マルチ高年齢被保険者である」旨を事業所の担当者とハローワーク双方に伝えておくと、手続きの行き違いを防げます。
よくある質問(FAQ)
Q1. マルチジョブホルダー制度に加入しているかどうかはどこで確認できますか?
雇用保険被保険者証や、ハローワークから交付される「資格取得等確認通知書(マルチ高年齢被保険者)」で確認できます。不明な場合は管轄のハローワークに問い合わせると教えてもらえます。
Q2. 片方の勤務先を退職したら、すぐにハローワークに届け出が必要ですか?
受給資格の判定自体は両方離職後になりますが、労働時間の変化によって加入要件を満たさなくなる可能性があるため、片方を退職した時点で一度ハローワークに相談しておくと安心です。
Q3. 2つの勤務先の賃金差が大きい場合、受給額はどちらの賃金を基準にしますか?
どちらか一方ではなく、原則として両方の賃金を合算した金額を基に賃金日額を算出するとされています。合算後の賃金水準によって給付率の区分が変わる点に注意してください。
Q4. マルチ高年齢被保険者でなくなった後、通常の雇用保険に切り替わることはありますか?
労働条件の変化によって1つの事業所だけで加入要件(週20時間以上など)を満たすようになった場合は、通常の高年齢被保険者としての扱いに移行する可能性があります。具体的な切り替えの要否は個別の状況によるため、窓口での確認が確実です。
Q5. 高年齢求職者給付金を受け取った後、再びどこかで働いても問題ありませんか?
高年齢求職者給付金は一時金であり、基本手当のような就労制限はありません。受給後すぐに新しい仕事を始めても給付金を返還する必要は基本的にないとされています。ただし受給手続き自体は離職後・求職申込後に行う必要があるため、手順の前後関係には注意してください。
Q6. 被保険者期間の通算はどのように計算されますか?
A社・B社それぞれでの加入期間を通算し、合計が1年以上か1年未満かで支給日数(50日分・30日分)が決まるのが基本的な考え方です。過去に離職と再加入を繰り返している場合は通算のルールがやや複雑になるため、ハローワークで実際の加入記録を確認してもらうのが確実です。
まとめ
- マルチジョブホルダー制度は65歳以上で2つの勤務先の労働時間を合算して雇用保険に加入する特例
- 高年齢求職者給付金の賃金日額は、両方の勤務先を離職して初めて2社分の賃金を合算して計算される
- 片方だけ離職した段階では給付金はすぐには支給されない
- 支給額は基本手当日額の30日分(被保険者期間1年未満)または50日分(1年以上)
- 申請には2社分の離職票が必要になるなど、通常の高年齢被保険者よりも書類確認の手間が増える
複数の勤務先を掛け持ちしている方の受給額計算は個別の賃金水準や離職タイミングによって変わってくるため、最終的な金額や手続きの詳細は、必ず管轄のハローワークまたは厚生労働省の最新情報で確認するようにしてください。