パート掛け持ちで失業保険はいくらもらえる?受給額の算定ルールと65歳からの特例を解説

複数のパートを掛け持ちしていた人が離職すると、「両方の給料を合計して受給額が決まるのでは」と考えがちですが、これは多くの場合誤解です。結論から言うと、64歳以下の方は原則として「主たる1つの事業所」の賃金のみが基本手当の算定基礎になります。一方で65歳以上の方には2022年1月から「マルチジョブホルダー制度(高年齢被保険者の特例)」があり、一定の条件を満たせば2つの事業所の賃金を合算できます。この記事では、年齢による違いと具体的な計算例、申請時に気をつけるべきポイントを整理します。

結論:合算できるかは「年齢」と「制度の利用有無」で決まる

まず押さえておきたいのは、雇用保険は基本的に「1人につき1つの事業所」でしか加入しないという原則です。複数のパートを掛け持ちしていても、雇用保険に加入しているのは収入や勤務時間が最も大きい「主たる事業所」のみで、もう一方(副業先)は雇用保険の対象外になっているケースがほとんどです。したがって、

  • 64歳以下の方:原則として主たる事業所の賃金のみで基本手当(いわゆる失業保険)の受給額が算定されます。副業パートの給料は原則加算されません。
  • 65歳以上の方:「マルチジョブホルダー制度」に本人が事前に申出をしていれば、2つの事業所の賃金・勤務時間を合算して「高年齢求職者給付金」の受給額を算定できます。

つまり「掛け持ちしていたから自動的に合算される」わけではなく、年齢要件と事前の手続きが前提条件になる点が最大のポイントです。

原則:なぜ複数のパート収入は合算されないのか

雇用保険の「主たる事業所」の考え方

雇用保険の適用事業所は、労働者が「生計を維持するうえで主たる賃金を得ている」事業所1つに限られるのが原則です。掛け持ちしていた2つのパート先のうち、勤務時間や給与が多い方が「主たる事業所」として雇用保険に加入し、もう一方は非対象(週の所定労働時間が加入基準に届かない短時間パートであることが多い)になっているケースが典型です。

離職時にハローワークへ提出する「離職票」は、雇用保険に加入していた主たる事業所からしか発行されません。副業先は雇用保険の被保険者ではなかったため、そもそも離職票の対象にならず、賃金台帳も算定に使われないという構造です。

基本手当日額の算定方法そのものを確認する

基本手当日額は、原則として離職前6か月間に支払われた賃金の総額を180で割った「賃金日額」に、年齢・賃金帯に応じた給付率(おおむね45〜80%)を掛けて算出します。この「離職前6か月の賃金総額」に含まれるのは、雇用保険の被保険者資格があった事業所(主たる事業所)の賃金だけです。副業パートの給料がどれだけ多くても、その事業所で雇用保険に加入していなければ算定基礎には一切反映されません。

掛け持ちをしていた人が「思ったより受給額が低い」と感じる最大の理由は、ここにあります。

例外:65歳以上なら「マルチジョブホルダー制度」で合算できる

65歳以上の方を対象に、2022年1月1日から「雇用保険マルチジョブホルダー制度」が始まっています。これは、1つの事業所では加入基準を満たさない短時間勤務を複数組み合わせている高齢者向けに作られた特例です。

加入条件:2つの事業所・合計週20時間以上

この制度を使うには、本人がハローワークへ「申出」を行い、次のような条件を満たす必要があるとされています。

条件 内容
対象年齢 申出時点で65歳以上
事業所数 2つの事業所の労働時間を合算(3つ以上は対象外)
各事業所の労働時間 それぞれ週5時間以上20時間未満
合計労働時間 2つの事業所合計で週20時間以上
勤務見込み 各事業所で31日以上の雇用が見込まれること

条件を満たしたうえで申出が受理されると、その人は「高年齢被保険者」として扱われ、2つの事業所の賃金を合算した基礎で給付額が計算される仕組みに乗ることができます。

合算の対象になるのは「高年齢求職者給付金」

65歳以上が離職した場合に受け取るのは、現役世代向けの「基本手当」ではなく「高年齢求職者給付金」です。これは失業認定日ごとに分割支給される基本手当とは異なり、一時金としてまとめて支給される給付金で、被保険者であった期間に応じて基本手当日額の30日分または50日分が支給されるとされています。マルチジョブホルダー制度の利用者も、この高年齢求職者給付金の枠組みの中で、2つの事業所の賃金を合算した賃金日額から算定されます。

両方の事業所を同時にやめる必要がある

注意したいのは、マルチジョブホルダー制度では2つの事業所のうち片方だけを離職しても、原則として給付の対象にはならないとされている点です。高年齢被保険者としての資格を喪失するのは、2つの事業所の双方を離職(または双方で労働時間が加入基準を下回る)したタイミングであり、そこから受給資格の判定が始まります。片方の勤務先だけ退職して様子を見る、という進め方は制度上想定されていないため、退職の順番やタイミングは窓口で事前に相談しておくことをおすすめします。

具体的な受給額シミュレーション

ケース1:本業+副業パート(64歳以下・合算されない例)

  • 本業パート:月給 12万円(週25時間、雇用保険加入)
  • 副業パート:月給 4万円(週8時間、雇用保険未加入)

このケースでは、雇用保険に加入していたのは本業パートのみなので、算定基礎になる賃金は本業の12万円×6か月分だけです。副業の4万円は反映されません。賃金日額はおよそ12万円×6か月÷180日=4,000円、ここに給付率(賃金帯によりおおむね50〜60%台)を掛けた金額が基本手当日額の目安になります。副業分の収入は受給額に直結しないという点を、離職前に理解しておくことが重要です。

ケース2:マルチジョブホルダー(65歳以上・合算される例)

  • 事業所A:週12時間、月給 8万円
  • 事業所B:週10時間、月給 6万円(合計週22時間で加入基準を満たす)

マルチジョブホルダー制度の申出が受理されていれば、合計月給14万円をベースに賃金日額が算定されます。両方の事業所を同時に離職し、高年齢被保険者としての受給資格が確認されれば、この合算賃金に基づいて高年齢求職者給付金(一時金)が支給される、という流れになります。制度を利用していなければ、A・Bどちらも「主たる事業所」とまでは言えない短時間勤務であるため、最悪の場合どちらの事業所からも雇用保険の給付を受けられない可能性がある点も、この制度が作られた背景の一つです。

掛け持ちパートで損しないための事前準備

「主たる事業所」をどう選ぶか・申し出のタイミング

64歳以下でこれから掛け持ちを始める場合、勤務時間や給与が大きい方の事業所で雇用保険に加入しているかを早めに確認しておくと安心です。勤務先の会社側が加入手続きを取っているかは、給与明細の雇用保険料の欄や「雇用保険被保険者証」の有無でチェックできます。65歳以上でマルチジョブホルダー制度の利用を考えている場合は、資格を喪失してから申出をすることはできないとされているため、在職中、できれば離職の見通しが立つ前の段階でハローワークに申出を済ませておくことが望ましいとされています。

ハローワーク窓口で確認すべきこと

初めて相談窓口を訪れる際は、以下を準備・確認するとスムーズです。

1. 両方(または全部)のパート先の雇用契約書・給与明細(直近6か月分) 2. 各事業所での週の労働時間・雇用保険加入の有無 3. 65歳以上の場合はマルチジョブホルダー制度の申出が済んでいるかどうか 4. 離職予定がある場合、2つの事業所をどのタイミングでやめるか

窓口では「どちらが主たる事業所になっているか」「制度の対象になるか」を個別の雇用状況に基づいて判定してもらえるため、自分だけで判断せず早い段階で相談するのが安全です。

よくある質問(FAQ)

Q1. 2つのパートを両方とも雇用保険に加入させてもらうことはできますか?

原則として、通常の雇用保険制度では1人が同時に2つの事業所で被保険者資格を重複して持つことは認められていないとされています。65歳以上でマルチジョブホルダー制度の申出をした場合のみ、特例的に2つの事業所分を合わせて1つの被保険者資格として扱われます。

Q2. マルチジョブホルダー制度は本人が申請しないと使えませんか?

はい。この制度は会社側が自動で手続きするものではなく、本人がハローワークに申出を行うことで初めて適用されるとされています。申出をしていない状態で離職してしまうと、遡って合算してもらうことは基本的にできないため、対象になりそうな方は早めの相談をおすすめします。

Q3. 3つ以上のパートを掛け持ちしている場合はどうなりますか?

マルチジョブホルダー制度で合算の対象にできるのは2つの事業所までとされています。3つ以上のパートを掛け持ちしている場合は、そのうち労働時間や賃金が多い2つを選んで申出をする形になります。

Q4. 副業パートの分だけ辞めた場合、基本手当はどうなりますか?

主たる事業所を継続して働いている場合は、そもそも離職していないため基本手当(失業保険)の受給資格自体が発生しません。副業を辞めたことで雇用保険の扱いが変わることも基本的にはないとされています。

Q5. 64歳以下でも複数のパート収入を合算してもらえる制度はありますか?

現時点の制度では、64歳以下を対象にした複数事業所の賃金を合算する仕組みは整備されていないとされています。マルチジョブホルダー制度は65歳以上の高年齢被保険者のみを対象とした特例である点に注意してください。

Q6. 高年齢求職者給付金は基本手当とどう違いますか?

基本手当は失業認定日ごとに分割して支給されるのに対し、高年齢求職者給付金は一度にまとまった金額が一時金として支給される点が大きな違いです。受給できる日数(30日分または50日分相当)も、現役世代向けの基本手当の所定給付日数とは別の基準で決まっています。

Q7. 申出が受理されたかどうかはどこで確認できますか?

申出を行ったハローワークの窓口で、受理結果や高年齢被保険者としての資格取得の通知を確認できます。不明な場合は申出をした窓口に問い合わせるのが確実です。

まとめ

  • 64歳以下は原則「主たる1つの事業所」の賃金のみで基本手当が算定され、副業パートの収入は反映されない
  • 65歳以上は「マルチジョブホルダー制度」への事前申出により、2つの事業所の賃金・労働時間を合算できる
  • 合算が適用されるのは基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」(一時金)
  • マルチジョブホルダー制度では2つの事業所を同時に離職することが前提となる
  • 掛け持ちをしている・する予定がある場合は、離職前にどちらが主たる事業所かを確認し、65歳以上なら早めにハローワークへ申出をしておくことが望ましい

掛け持ち勤務の雇用保険の扱いは個別の勤務状況によって判断が変わる部分も多いため、具体的な受給額や申出の可否については、最新情報を厚生労働省・ハローワーク公式サイトで確認したうえで、お近くのハローワーク窓口へ相談することをおすすめします。