失業保険と扶養はどっちが得?もらわない選択の損益分岐点をシミュレーション

失業保険(基本手当)は「もらえるものは必ずもらうべき」と思われがちですが、実は申請するかどうかは本人の自由です。特に配偶者の扶養に入っている人は、失業保険を受給すると扶養から外れて社会保険料の自己負担が発生するため、「もらう」ほうが必ずしも手取りで得とは限りません。結論から言うと、基本手当日額が概ね3,612円を超えるかどうかが損益分岐点の第一の目安になります。この記事では、もらう場合ともらわない場合それぞれの受け取り額・負担額を具体的にシミュレーションし、どちらを選ぶべきかの判断材料を整理します。

結論:日額3,612円が扶養の壁、そこから逆算するのが損益分岐点

先に結論を示します。

  • 基本手当日額が概ね3,612円未満なら、扶養にとどまったまま失業保険を受給できるケースが多く、この場合は迷わず「もらう」が得
  • 基本手当日額が概ね3,612円以上になると扶養を外れ、国民健康保険・国民年金の自己負担が発生するため、給付日数が短い(総受給額が少ない)人ほど「もらわない」選択の方が手取りで有利になる場合がある
  • 逆に給付日数が多い(会社都合退職・勤続年数が長い)人は、扶養を外れるコストを差し引いても「もらう」ほうが総額で有利になりやすい

つまり「もらわない方が得」というのは、あくまで日額が扶養ラインぎりぎりで、かつ給付日数が短い一部のケースに限られる話です。順を追って、なぜこの結論になるのかを見ていきましょう。

そもそも失業保険は「もらわない」を選べるのか

受給資格があっても申請は義務ではない

失業保険(基本手当)は雇用保険の被保険者であった人が離職した際に申請すれば受け取れる給付であり、申請するかどうかは本人の判断に委ねられています。ハローワークで求職の申込みをして受給資格決定を受けなければ支給は始まらないため、単に申請をしないという選択も制度上は可能です。

「もらわない」を選ぶと扶養を外れるコストが発生しない

失業保険を申請しなければ、そもそも扶養の収入基準を超える収入が発生しないため、配偶者の健康保険・年金の扶養にとどまり続けられます。この「扶養を外れない」というメリットが、もらわない選択の最大の利点です。詳しい扶養を外れる手続きは失業保険で扶養から外れる手続き完全ガイド【健康保険組合版】でも解説していますが、この記事ではその手前の「そもそも申請するかどうか」を判断する材料に絞って解説します。

「もらう」場合のシミュレーション:受給額はいくらになるか

基本手当日額の計算方法

基本手当日額は、離職前6ヶ月の賃金を基に算出した賃金日額のおおむね45〜80%(60〜64歳は45〜80%、それ以外の年齢層も賃金水準により率が変動)で決まります。賃金が低い人ほど給付率が高く設定される仕組みです。

給付日数と総受給額の目安

給付日数は離職理由(自己都合か会社都合か)と被保険者期間、年齢によって決まります。

離職理由 被保険者期間の目安 給付日数の目安
自己都合退職 10年未満 90日前後
自己都合退職 10年以上20年未満 120日前後
会社都合・特定理由離職 1年未満〜20年以上 90〜330日

たとえば基本手当日額が5,000円で給付日数が90日なら、総受給額は単純計算で45万円(5,000円×90日)です。給付日数が150日なら75万円になります。この総受給額と、扶養を外れることで発生するコストを比較するのが損益分岐点の考え方です。

「もらわない」場合に守れるお金

社会保険料の自己負担がゼロのまま

配偶者の扶養に入っている間は、健康保険料・国民年金保険料(第3号被保険者分)を自分で負担する必要がありません。失業保険をもらわなければこの状態が維持され、扶養を外れた場合に発生する国民健康保険料+国民年金保険料を丸ごと払わずに済みます。前提となる保険料の目安は失業保険で扶養から外れる手続き完全ガイド【健康保険組合版】のシミュレーションが参考になりますが、概ね月1万円台後半〜2万円台が目安とされています。

配偶者の会社の家族手当・扶養手当への影響も要確認

見落とされがちですが、健康保険の扶養基準とは別に、配偶者の勤務先が支給する「家族手当」「扶養手当」の収入基準にも注意が必要です。企業によっては税法上の扶養(配偶者控除・配偶者特別控除の基準)や独自の収入基準を採用しており、失業保険の受給がこれらの手当の支給停止につながる場合があります。

社会保険上の扶養(130万円の壁)、税法上の扶養(配偶者控除の103万・150万の壁)、会社独自の家族手当基準の3つは別々の制度です。もらわない選択を検討する際は、この3つすべてに影響がないかを配偶者の勤務先に確認しておくと安心です。

損益分岐点シミュレーション:給付日数別に比較

パターン1:給付日数が少ない人(自己都合・短期間勤務)

被保険者期間が短く、自己都合退職で給付日数が90日、基本手当日額が扶養ラインをやや超える4,000円程度のケースを想定します。

項目 もらう場合 もらわない場合
失業保険の総受給額 36万円(4,000円×90日) 0円
国保・国民年金の追加負担(受給期間中) 数万円程度(受給期間の月数分) 0円
差し引きの手取り増減 追加負担を差し引いてもプラスになるケースが多い ±0円

このケースでは、受給期間が短ければ社会保険料の追加負担も少額にとどまるため、「もらう」方が手取りでプラスになることがほとんどです。

パターン2:給付日数が多い人(会社都合・長期間勤務)

会社都合退職で給付日数が240日、基本手当日額が6,000円のケースでは、総受給額は144万円(6,000円×240日)にのぼります。この場合、扶養を外れて発生する社会保険料の追加負担(受給期間の数ヶ月分、目安で数万円〜十数万円程度)を差し引いても、「もらう」方が圧倒的に有利です。

手取りベースで比較する際の注意点

損益分岐点がシビアになるのは、基本手当日額が扶養ラインぎりぎり(3,612円前後)で、かつ給付日数も短いという条件が重なったケースだけです。それ以外の大多数のケースでは、扶養を外れるコストよりも失業保険の総受給額の方がはるかに大きく、「もらわない」選択が経済的に得になる場面は限定的だと理解しておきましょう。

もらわない選択をする前に検討したい3つのポイント

求職活動の意思がないなら申請しない選択もあり

失業保険は「働く意思・能力があるのに職がない」人のための給付であり、受給には求職活動の実績が求められます。しばらく働く予定がない、専業主婦・主夫に戻る予定があるなど、求職活動を継続する意思がない場合は、無理に受給資格を取得しても認定のたびに活動実績を作る手間がかかります。そうした事情がある人は、最初から申請しないという選択も現実的です。

受給期間の延長制度でタイミングをずらす方法

「今は求職活動をする状況にないが、将来的にはもらいたい」という場合は、受給期間の延長制度を使う方法もあります。原則1年間の受給期間を、病気・出産・介護などの理由があれば延長でき、扶養に入ったまま様子を見て、後日改めて求職活動を開始してから受給する選択肢です。

「あえて基準額以下に抑える」ことは基本的にできない

基本手当日額は離職前の賃金をもとに機械的に算出されるため、「扶養の基準以下になるよう自分で金額を調整する」ことは制度上できません。日額が基準を超えるかどうかは受給資格決定時に確定するため、コントロールできるのは「もらうかもらわないか」の二択だと理解しておきましょう。

実際の手続き・相談の流れ

ハローワークでの手続きの流れ

1. 離職票を持ってハローワークで求職の申込みを行う 2. 受給資格決定を受け、雇用保険受給資格者証が交付される(この時点で基本手当日額と給付日数が確定する) 3. 受給資格者証に記載された日額を見て、扶養を外れる基準に該当するか確認する 4. 該当する場合は、受給資格決定後すみやかに配偶者の勤務先へ扶養喪失の手続きを依頼する

受給資格者証が交付されるまでは正確な日額が分からないため、「もらう・もらわない」の最終判断は受給資格決定後にするのが現実的です。申込み自体は取り下げることもできるため、まず申込みをして日額を確認してから判断する進め方もあります。

配偶者の健保窓口への確認ポイント

配偶者の健康保険が協会けんぽか、勤務先独自の健康保険組合かによって扶養の収入基準が異なります。受給資格者証が交付されたら、記載されている基本手当日額を伝えたうえで、次の3点を確認しましょう。

  • 扶養の収入基準となる日額はいくらか(協会けんぽの目安は3,612円だが健保組合ごとに異なる)
  • 給付制限期間・待期期間中も扶養を外れる必要があるか
  • 扶養から外れる場合の必要書類と提出期限

よくある質問(FAQ)

Q1. 失業保険をもらわない選択をすると、後からもらえなくなりますか?

受給期間(原則離職日の翌日から1年間)内であれば、途中から申請することも可能です。ただし受給期間を過ぎると原則として権利が消滅するため、いつまでも先延ばしにできるわけではありません。

Q2. パート・アルバイトでも同じ考え方で比較できますか?

考え方は同じです。ただしパート・アルバイトの場合、雇用保険の加入要件を満たしていなければそもそも受給資格自体が発生しないため、まずは離職票が交付されるか(雇用保険に加入していたか)を確認してください。

Q3. 扶養を外れる期間だけ配偶者の会社の家族手当も止まりますか?

会社の家族手当・扶養手当の基準は健康保険の扶養基準とは別に企業が独自に定めています。止まるかどうかは会社の就業規則次第のため、配偶者の勤務先の人事・給与担当に個別に確認する必要があります。

Q4. 「もらわない」を選んだ場合、確定申告や住民税に影響はありますか?

失業保険(基本手当)自体は非課税のため、もらってもそのために所得税・住民税が増えることはありません。もらわない場合との税務上の有利不利は、原則として発生しません。

Q5. 損益分岐点の日額3,612円というのは全員共通ですか?

協会けんぽの目安であり、勤務先の健康保険組合によっては基準が異なります。正確な基準は配偶者の勤務先の健保窓口に確認するのが確実です。

Q6. 給付制限期間中(自己都合退職の場合)は扶養に入ったままでいいですか?

給付制限期間中は基本手当が支給されないため、収入が発生しない期間として扱われることが一般的です。ただし健保組合によって「受給資格決定時点」で扶養喪失の判断をするところもあるため、この点も窓口で確認しておくと安心です。

Q7. もらわない場合、将来の年金額に影響はありますか?

失業保険の受給自体は年金額に直接影響しません。ただし扶養を外れて第1号被保険者になった期間に保険料を未納のまま放置すると将来の年金額に影響するため、扶養を外れる場合は免除・猶予制度の活用も含めて手続きを忘れないようにしましょう。

まとめ

  • 失業保険は申請しなければ受給されない「申請主義」の給付であり、もらわない選択も制度上可能
  • 扶養を外れるかどうかの目安は基本手当日額 概ね3,612円(健保組合により異なる)
  • 給付日数が短く日額が基準ぎりぎりのケースを除き、総受給額が扶養を外れるコストを上回るため「もらう」方が得になることが多い
  • 求職活動の意思がない、または一時的に受給を先延ばしにしたい場合は受給期間の延長制度の活用も検討する
  • 最終判断は雇用保険受給資格者証が交付され、正確な日額が確定してからが現実的

この記事のシミュレーションはあくまで一般的な目安です。実際の給付額・保険料は個々の状況によって異なるため、正確な金額はハローワークの窓口、および配偶者の健康保険組合・市区町村の窓口で必ず確認してください。