60〜64歳で退職し、老齢厚生年金(特別支給)と失業手当(雇用保険の基本手当)の両方の受給資格がある方は、「両方もらえるのか」「どちらが得なのか」で迷いがちです。
結論から言うと、60〜64歳で受け取れる「特別支給の老齢厚生年金」と「基本手当」は同時にはもらえません。ハローワークで求職の申込みをすると、その翌月から年金が全額支給停止になる仕組みになっています。ただし停止された年金は一定の条件で後から精算されるため、単純に「年金を諦める」わけではありません。この記事では併給調整の仕組み、事後精算のルール、実際の金額シミュレーション、どちらを選ぶべきかの判断基準まで、手続きの順番も含めて解説します。
結論:基本手当と年金は同時受給できない。ただし選択の余地はある
- 60〜64歳で受け取れる年金は「特別支給の老齢厚生年金」(報酬比例部分のみ)で、これは基本手当と併給調整の対象になる
- ハローワークで求職の申込みをした日の翌月から、年金は原則全額支給停止になる
- 停止された年金のうち、実際には基本手当を受給しなかった日数分は「事後精算」で遡って支給される
- 老齢基礎年金(国民年金)は併給調整の対象外なので、基礎年金部分は満額受け取れる
- 一般的に、金額だけで比べると基本手当のほうが月あたりの受給額が大きくなるケースが多い(後述の試算参照)
- 65歳を過ぎてからの退職なら調整の仕組み自体が変わり、年金と失業給付(高年齢求職者給付金)は併給可能になる
そもそも60〜64歳でもらえる年金と失業給付の種類
特別支給の老齢厚生年金とは
60〜64歳で受け取れる年金は、原則65歳から始まる老齢厚生年金とは別枠の「特別支給の老齢厚生年金」です。厚生年金に一定期間加入していた人が対象で、生年月日によって受給開始年齢が異なります(段階的に引き上げられており、現在は多くの方が64歳支給開始、または対象外になっています)。
| 項目 | 内容 |
|---|---|
| 対象 | 厚生年金の被保険者期間が1年以上ある人 |
| 支給内容 | 報酬比例部分のみ(定額部分・基礎年金部分は含まない) |
| 受給開始年齢 | 生年月日により60〜64歳の間で異なる |
| 手続き | 年金事務所または街角の年金相談センターへ請求書提出 |
60〜64歳の失業手当(基本手当)とは
雇用保険に加入して働いていた人が離職した場合、ハローワークで求職の申込みをすることで受け取れるのが基本手当です。60〜64歳の給付率は離職前賃金の50〜80%(賃金水準が低いほど給付率は高い)で、所定給付日数は被保険者期間と離職理由によって90〜150日(自己都合)、最大330日(会社都合・特定受給資格者)などに分かれます。
併給調整の仕組み:なぜ同時にもらえないのか
停止のトリガーはハローワークでの「求職の申込み」
年金が止まるのは「基本手当を実際に受け取り始めた日」ではなく、ハローワークで求職の申込みをした日が基準です。
1. ハローワークで求職の申込み・受給資格決定を受ける 2. その情報が日本年金機構に通知される 3. 求職の申込みをした日の属する月の翌月から、特別支給の老齢厚生年金が全額支給停止になる 4. 停止は、基本手当の受給期間(原則、離職日の翌日から1年間)が終わる月まで続く
つまり、実際には1日も基本手当を受け取っていなくても、求職の申込みをしただけで年金は止まる点に注意が必要です。「年金をもらいながら失業手当ももらう」という選択はできません。
事後精算で戻ってくる場合がある
所定給付日数をすべて消化せずに再就職が決まった場合など、基本手当を受給しなかった日数分については、年金が遡って支払われる「事後精算」の仕組みがあります。
- 精算は3か月ごとにハローワークから年金事務所へ実際の受給状況(支給された日数)が通知されて行われる
- 実際に基本手当を受け取った日数分は、その分の年金は戻ってこない(停止のまま)
- 受給期間満了までに就職が決まらず所定給付日数を使い切った場合、事後精算で戻る金額はない
- 精算後の年金支払いまでには数か月のタイムラグが生じるのが一般的
窓口での実務メモ:ハローワークの窓口では「年金は止まりますが、後で調整されるので損はしません」という説明を受けることが多いですが、実際には停止期間中は手元のキャッシュフローが一時的に減ることになります。早期就職を目指す方ほど、この立て替え期間をどう乗り切るかも考えておくと安心です。
老齢基礎年金・老齢基礎年金相当部分は対象外
併給調整の対象になるのはあくまで特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)です。老齢基礎年金を60〜64歳ですでに繰上げ受給している場合、その基礎年金部分は基本手当との調整対象にはならず、満額受け取れます(繰上げ受給には別途、減額のデメリットがあるため別問題として検討が必要です)。
高年齢雇用継続給付・在職老齢年金との違いに注意
似た制度に「在職老齢年金」(働きながら年金をもらう場合の年金減額調整)や「高年齢雇用継続給付」(60歳以降の賃金低下を補う給付)がありますが、これらは再就職して働いている場合の調整です。本記事のテーマである基本手当(失業給付)との調整とは仕組みが異なるので混同しないよう注意してください。
- 在職老齢年金:再就職後の給与+年金の合計額に応じて年金が減額される仕組み
- 高年齢雇用継続給付:60歳以降に賃金が大きく下がった人へハローワークから支給される給付金。在職老齢年金とはさらに別の調整がある
- 基本手当(本記事のテーマ):離職して求職活動中の人向けの給付。年金は全額停止という、在職老齢年金より厳しい調整
どちらが得か:金額シミュレーションで比較
一般的な目安として、離職前の賃金水準がある程度あった方の場合、月あたりの受給額は基本手当のほうが特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分)を上回るケースが多いとされています。目安として次のようなイメージです。
| 項目 | 目安月額 | 備考 |
|---|---|---|
| 特別支給の老齢厚生年金(報酬比例部分) | 数万円〜10万円程度 | 加入期間・平均標準報酬額により大きく変動 |
| 基本手当 | 賃金日額の50〜80%×30日分 | 上限額あり。目安で月10〜18万円程度になるケースも |
ただし、これは一般的な傾向であり、個々の年金加入期間・標準報酬額・離職理由(給付制限の有無)によって逆転することもあります。ねんきん定期便や年金事務所での見込額試算、ハローワークでの基本手当日額の計算(離職票をもとに算出)を、両方確認したうえで比較するのが確実です。
判断の目安フローチャート
- 再就職の意欲が高く、早期に決まりそうな場合 → 基本手当を選び、事後精算で年金も一部取り戻す
- 再就職の予定がなく、年金額のほうが明らかに高い場合 → 求職の申込みをせず年金を選択する(基本手当の受給期間は原則1年で消滅する点に注意)
- 年金額と基本手当の差が小さい場合 → 所定給付日数・受給期間の残り日数も踏まえて年金事務所とハローワーク双方に相談
- 65歳の誕生日が目前の場合 → 65歳以降に離職すれば高年齢求職者給付金(一時金)となり年金と併給調整がなくなるため、退職時期をずらせないか検討する価値がある
65歳以降との違い:高年齢求職者給付金は併給可能
65歳以降に離職した場合、基本手当ではなく「高年齢求職者給付金」(基本手当日額の30日分または50日分の一時金)が支給されます。これは老齢基礎年金・老齢厚生年金(本来支給)と併給調整の対象外で、年金を満額受け取りながら高年齢求職者給付金も受け取れます。
このため、64歳での退職と65歳での退職を選べる状況(誕生日が近い、離職日を調整できるなど)であれば、併給調整のない65歳以降の退職の方が手取りベースで有利になるケースがあります。会社の退職日調整が可能か、事前に人事担当者やハローワークに相談してみる価値があります。
手続きの流れと注意点
1. 離職前に年金事務所へ見込額を確認:特別支給の老齢厚生年金の見込額を「ねんきんネット」や年金事務所で試算する 2. 離職票を受け取ったらハローワークで基本手当日額を確認:求職の申込み前に、受給資格決定の窓口で基本手当日額・所定給付日数を確認できる 3. 金額を比較して求職の申込みをするか判断:求職の申込みをした時点で年金停止のトリガーが引かれる点を踏まえて判断する 4. 求職の申込み後は年金事務所への届出も忘れずに:年金受給中に求職の申込みをする場合、年金事務所側の手続きが必要になることがあるため、年金事務所にも状況を伝えておくと事後精算がスムーズ 5. 受給期間の期限に注意:基本手当の受給期間は原則、離職日の翌日から1年間。年金と比較検討している間に受給期間が過ぎると基本手当自体が受け取れなくなる
よくある質問(FAQ)
Q1. 年金の請求をしなければ、基本手当と両方もらえますか?
年金の請求(裁定請求)をしていない場合、そもそも年金は支給されていないので調整も発生しません。基本手当は問題なく受け取れます。ただし、特別支給の老齢厚生年金は請求しないと時効になる場合があるため、受け取る権利がある方は将来的にどこかで請求手続きが必要です。
Q2. 求職の申込みだけして、実際には基本手当を受け取らなかった場合はどうなりますか?
求職の申込みをした時点で年金は停止しますが、実際に基本手当を受給しなかった日数分は事後精算で年金が遡って支払われます。ただし精算までには数か月かかるのが一般的です。
Q3. 年金の繰上げ受給をしている場合も同じ調整がありますか?
老齢基礎年金の繰上げ受給部分は基本手当との調整対象外です。ただし、厚生年金の報酬比例部分については同様に調整の対象になります。繰上げ受給には減額という別のデメリットもあるため、総合的な判断が必要です。
Q4. 高年齢雇用継続給付を受け取りながら基本手当ももらえますか?
高年齢雇用継続給付は「再就職して働いている」ことが前提の給付なので、求職活動中に受け取る基本手当とは同時に発生しません。基本手当の受給が終わって再就職した後に、条件を満たせば高年齢雇用継続給付の対象になり得ます。
Q5. 65歳の誕生日をまたいで離職する場合、どちらの制度が適用されますか?
離職日(正確には雇用保険の被保険者資格を喪失した日)が65歳の誕生日の前日より前か後かで、基本手当か高年齢求職者給付金かが決まります。誕生日をまたぐ場合は、離職日を数日調整できないかハローワークや会社に確認する価値があります。
Q6. 年金事務所とハローワーク、どちらに先に相談すべきですか?
順番としては、まず年金事務所で年金見込額を確認し、次にハローワークで基本手当日額・所定給付日数を確認したうえで比較するのがおすすめです。ハローワークの窓口では年金額までは把握していないため、両方の窓口を回る必要があります。
Q7. 会社都合退職と自己都合退職で、この併給調整の扱いは変わりますか?
併給調整の仕組み自体(求職の申込みで年金停止)は離職理由に関わらず共通です。ただし、自己都合退職の場合は給付制限期間があり、その間は基本手当も年金も受け取れない「空白期間」が生じる点には注意が必要です。
まとめ
- 60〜64歳の特別支給の老齢厚生年金と基本手当は同時受給できず、求職の申込みをした翌月から年金は全額停止される
- 停止された年金のうち、実際に基本手当を受け取らなかった日数分は事後精算で遡って支払われる
- 老齢基礎年金は調整対象外で満額受け取れる
- 一般的には基本手当のほうが月額で有利になるケースが多いが、加入期間・賃金水準により逆転することもあるため事前の金額試算が必須
- 65歳以降の離職なら高年齢求職者給付金として年金と併給可能になるため、離職時期の調整も選択肢に入れる
- 判断に迷う場合は、年金事務所とハローワークの両方に相談し、見込額を突き合わせてから求職の申込みをするのが安全
本記事の内容は制度の一般的な仕組みの説明であり、個々の受給額や適用条件は生年月日・加入期間・離職理由によって異なります。最新の制度内容や個別の見込額については、必ず日本年金機構(ねんきんネット・年金事務所)および最寄りのハローワークで確認してください。