「65歳を過ぎて会社を辞めて、高年齢求職者給付金を受け取った。これって確定申告の対象になるの?」——受給後にふと不安になる方は少なくありません。年金や退職金、再就職後の給与とどう絡むのか、申告書のどこに書けばいいのか、迷うポイントが多い論点です。
結論からお伝えすると、高年齢求職者給付金は所得税法上「非課税所得」として扱われ、確定申告の対象になりません。ただし、同じ年に退職金・年金・再就職後の給与などがある場合は、それらの取り扱いを別途整理する必要があります。
この記事では、高年齢求職者給付金が非課税である根拠から、年金・退職金・扶養との関係、住民税・国民健康保険料への影響、そして「結局自分は申告が必要なのかどうか」を判断するための具体的なケース分けまで、一気通貫で解説します。
結論:高年齢求職者給付金は非課税。確定申告は不要
最初に答えを示します。
- 高年齢求職者給付金は非課税所得であり、所得税・住民税のいずれもかかりません。
- そのため、この給付金単独では確定申告は不要です。
- 確定申告書の「収入」「所得」欄に金額を記入する必要もありません。
- 源泉徴収もされていないため、源泉徴収票も発行されません。
ただし、ここで「じゃあ自分は何もしなくていいんだな」と早合点するのは危険です。以下のような状況に該当する方は、給付金とは別の理由で確定申告が必要・または有利になるケースがあります。
- 退職金を受け取ったが「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出していない
- 年金以外に給与所得・事業所得などがある
- 年の途中で退職し、年末調整を受けていない
- 医療費控除・住宅ローン控除など、申告で還付を受けたい控除がある
それぞれのケースは後半で詳しく整理します。まずは「なぜ非課税なのか」という根拠から確認していきましょう。
高年齢求職者給付金が非課税である法的根拠
「ハローワークから振り込まれたお金=雑所得では?」と直感的に感じる方もいるかもしれません。なぜ非課税扱いになるのか、根拠条文から確認しておくと安心です。
雇用保険法 第12条による非課税規定
高年齢求職者給付金は、雇用保険の「失業等給付」の一種です。雇用保険法には次の規定があります。
> 雇用保険法第12条(公課の禁止) > 租税その他の公課は、失業等給付として支給を受けた金銭を標準として、これを課することができない。
この条文が、失業手当・高年齢求職者給付金・再就職手当・教育訓練給付金など、雇用保険から支給される給付すべてを非課税としている根拠です。所得税だけでなく住民税も対象外なので、翌年の住民税計算にも影響しません。
65歳未満の「基本手当(失業手当)」との違いはない
65歳未満で離職した場合に受給する基本手当(いわゆる失業手当)も同じく雇用保険法第12条によって非課税です。つまり「65歳前の失業手当は非課税で、65歳以降の高年齢求職者給付金だけ課税」という違いはありません。どちらも同じ非課税扱いです。
「課税証明書」にも載らない
非課税であるため、市区町村が発行する所得証明書・課税証明書にも記載されません。住宅ローン審査や保育料算定など、所得証明が必要になる場面でも「給付金を受給したから所得が増えた」という扱いにはならない点も覚えておくとよいでしょう。
それでも確定申告が必要になるケース
高年齢求職者給付金そのものは非課税ですが、同じ年にほかの収入があるかどうかで、確定申告が必要になるかは変わります。以下のチェックポイントを順番に確認してください。
ケース1:退職金を受け取った場合
退職金は「退職所得」として、給与所得などとは分離して課税されます。原則として会社が源泉徴収して納税を完結させるため、本人の申告は不要ですが、前提条件があります。
| 状況 | 退職時の手続き | 確定申告 |
|---|---|---|
| 「退職所得の受給に関する申告書」を会社に提出した | 会社が適正額を源泉徴収 | 不要 |
| 同申告書を提出しなかった | 退職金の額面に一律20.42%が源泉徴収される | 必要(払いすぎを取り戻すため) |
退職所得控除は勤続年数に応じて計算され、勤続20年までは年40万円、20年超は年70万円で加算されます。長く勤めた方ほど控除額が大きく、税額が0円になるケースも珍しくありません。申告書未提出のままでは取りすぎられた税金が戻らないので、心当たりがある方は確定申告で還付を受けましょう。
ケース2:年金を受け取っている場合
公的年金は「雑所得」として課税対象です。ただし、次の「確定申告不要制度」に該当する方は申告不要です。
- 公的年金等の収入金額の合計が400万円以下
- かつ、公的年金等以外の所得が20万円以下
高年齢求職者給付金は「公的年金等以外の所得」の判定にも含まれません(そもそも非課税のため)。したがって、年金収入400万円以下で他の所得が20万円以下なら、給付金を受け取っていても申告不要です。
ただし、医療費控除や生命保険料控除などで還付を受けたい場合は、申告不要制度の対象でも自分から申告すれば還付されます。
ケース3:年の途中で退職して年末調整を受けていない場合
年の途中で退職し、その年中に再就職しなかった場合、会社で年末調整が行われません。給与から源泉徴収された所得税は、本来の年税額より多めに納めていることが多いため、確定申告で還付を受けられる可能性が高いです。
このケースの「収入欄」に書くのは前職の給与(源泉徴収票記載額)のみで、高年齢求職者給付金は記載しません。
ケース4:再就職してその年に給与を受け取った場合
退職後、同じ年に再就職した場合は次のいずれかになります。
- 再就職先で前職の源泉徴収票を含めて年末調整してもらう → 申告不要
- 年末調整時に前職分を合算しなかった → 自分で確定申告
いずれの場合も、給付金欄の記入は不要です。
ケース5:医療費控除や住宅ローン控除を受けたい場合
医療費控除・寄附金控除(ふるさと納税のワンストップ対象外)・住宅ローン控除(初年度)などは、確定申告でしか適用を受けられない控除があります。給付金は記載しませんが、これらの控除を活用する場合は申告書を作成しましょう。
健康保険・年金・住民税への影響
「税金はかからない」のはわかった。では、ほかの社会保険料や扶養はどうなるのでしょうか。気になりやすいポイントを整理します。
国民健康保険料・後期高齢者医療保険料の算定には含まれない
国民健康保険料・後期高齢者医療保険料は前年の所得を基に算定されます。高年齢求職者給付金は非課税所得なので、保険料算定の基礎にも含まれません。
ただし、任意継続被保険者として勤め先の健康保険に残った場合、保険料は標準報酬月額に基づいて算定されるため、給付金の有無は関係ありません。
介護保険料も同様
65歳以上の第1号被保険者の介護保険料は、所得段階に応じた区分制になっています。判定の基準は合計所得金額・課税年金収入額などで、非課税である高年齢求職者給付金は含まれません。
配偶者の扶養に入っている場合の判定
社会保険上の扶養(被扶養者)の判定では、年間収入130万円未満(60歳以上または障害者は180万円未満)が基準とされます。ここで言う「収入」には雇用保険の失業給付や高年齢求職者給付金が含まれる点に注意が必要です。
ただし、高年齢求職者給付金は一時金で支給される(後述)ため、所定給付日数分を日割りした金額で日額判定する考え方が用いられます。配偶者の健康保険組合ごとに運用が異なるので、事前に勤務先の健保組合に確認しておくと確実です。
一方、税法上の扶養(配偶者控除・配偶者特別控除)の判定では、非課税所得は合計所得金額に含まれません。給付金を受け取っても税法上の扶養から外れることはありません。
住民税の非課税判定にも含まれない
「住民税非課税世帯」の判定基準である合計所得金額にも、給付金は含まれません。住民税の非課税判定や、各種給付金(臨時特別給付金など)の判定で不利になる心配はありません。
高年齢求職者給付金そのものをおさらい
ここで、給付金の性格を簡単に振り返っておきます。確定申告との関係を整理するうえで、一時金で支給されるという点が重要です。
65歳以上で離職した方が受け取る一時金
高年齢求職者給付金は、65歳以上で離職した雇用保険の被保険者に支給される一時金です。65歳未満の「基本手当(失業手当)」と異なり、所定給付日数分が一括で支給されます。
| 項目 | 高年齢求職者給付金 | 基本手当(65歳未満) |
|---|---|---|
| 支給形態 | 一時金(一括) | 4週間ごと分割 |
| 所定給付日数 | 30日 or 50日 | 90〜360日 |
| 年金との併給 | 可能 | 老齢厚生年金は支給停止 |
| 課税 | 非課税 | 非課税 |
老齢年金との併給が可能な点が大きなメリット
65歳未満で基本手当を受給すると老齢厚生年金は支給停止になりますが、高年齢求職者給付金は老齢年金と同時受給が可能です。これは65歳以降の働き方を考えるうえで大きな利点ですが、年金は引き続き「公的年金等の雑所得」として課税対象なので、給付金は非課税でも年金部分は通常通り申告対象になります。
確定申告の具体的な書き方(必要なケースのみ)
「自分は申告が必要そうだ」と判断した方向けに、申告書のどこに何を書くかを簡潔に整理します。
Step 1:申告書を入手する
国税庁の「確定申告書等作成コーナー」を使えば、画面の案内に従って入力するだけで申告書が作成できます。e-Taxを使えば自宅から提出まで完結します。
Step 2:収入を入力する
- 公的年金 → 「公的年金等」の欄に、源泉徴収票記載額を入力
- 退職金(申告書未提出のケース) → 「退職所得」欄に入力
- 給与(前職・再就職先) → 「給与所得」欄に源泉徴収票を見て入力
- 高年齢求職者給付金 → どこにも記入しない
Step 3:所得控除を入力する
- 社会保険料控除:1年間に支払った国民健康保険料・国民年金保険料
- 生命保険料控除:保険会社からの控除証明書をもとに入力
- 医療費控除:1年間の医療費明細をまとめて入力(10万円超または所得の5%超が対象)
- 配偶者控除・扶養控除:要件を満たす家族がいる場合
Step 4:提出方法を選ぶ
- e-Tax送信(マイナンバーカード or ID・パスワード方式)
- 郵送(税務署宛て)
- 税務署窓口に持参
申告期限は原則として翌年2月16日〜3月15日です。還付申告のみなら、対象年の翌年1月1日から5年間提出可能です。
よくある質問(FAQ)
Q1. 高年齢求職者給付金を受け取ったら、自治体や税務署に届け出は必要ですか?
不要です。給付金は非課税所得なので、税務署や市区町村への届出義務はありません。ハローワークから自治体への通知も特にありません。
Q2. 給付金の振込通知書や受給資格者証は、確定申告のときに保管しておくべきですか?
確定申告に使う書類ではありませんが、翌年に何かの問い合わせが来た場合の証拠として、振込確認できる通帳記載と合わせて1〜2年は保管しておくと安心です。
Q3. 「住民税申告」は別に必要ですか?
非課税所得しかない方や、申告不要制度の対象者でも、自治体によっては住民税申告を求められる場合があります。国民健康保険料の算定や各種給付の判定で「所得を申告していない人」として扱われると不利になるケースがあるため、収入が給付金しかない場合でも「収入なし」の住民税申告を求められることがあります。市区町村の住民税窓口に確認しましょう。
Q4. 給付金を受け取った年の翌年、住民税が高くなることはありますか?
ありません。給付金は住民税の所得割・均等割いずれの算定にも含まれません。むしろ、退職して給与収入が減ったぶん、翌年の住民税は前年より下がるのが一般的です。
Q5. 給付金を受け取っている期間中、配偶者の社会保険の扶養から外れますか?
配偶者の健康保険組合の運用により異なります。高年齢求職者給付金は一時金支給ですが、健保組合によっては所定給付日数で日割りした日額で判定し、扶養から一時的に外れる扱いをすることがあります。申請前に必ず配偶者の勤務先の健保組合に確認してください。
Q6. 給付金と老齢年金を同時に受け取っています。年金部分の申告はどうすればよいですか?
年金収入の合計が400万円以下で、給付金以外の「雑所得・給与所得など」が20万円以下なら、確定申告不要制度の対象です。それを超える場合や、医療費控除などで還付を受けたい場合は、年金の源泉徴収票を元に「公的年金等」欄を記入して申告します。給付金は記入しません。
Q7. 退職金を受け取りましたが、「退職所得の受給に関する申告書」を提出したか覚えていません。確認方法は?
退職金の支払明細を見て、源泉徴収税額が「退職金額×20.42%」になっていれば未提出(要申告)、それ以下なら提出済みの可能性が高いです。会社の経理担当に問い合わせるのが確実です。
Q8. 給付金の額を「収入」として聞かれる場面はありますか?
住宅ローン審査・賃貸契約・保育料算定など、自己申告で「収入」を書く欄では、通常前年の課税対象所得を答えれば足ります。ただし、銀行や不動産会社が独自に判定する場合もあるため、「非課税ですが給付金として◯◯円受け取りました」と補足説明するとトラブルを避けられます。
Q9. 確定申告で還付を受けるためには、いつまでに申告すればよいですか?
還付申告は対象年の翌年1月1日から5年間有効です。たとえば2026年中に受給して還付を受けたい場合、2031年12月31日までなら申告できます。
Q10. ハローワークから「源泉徴収票」が送られてきません。請求すれば発行されますか?
発行されません。給付金は非課税なので源泉徴収自体が行われておらず、源泉徴収票も存在しません。確定申告でも提示を求められることはありません。
まとめ
最後に要点を整理します。
- 高年齢求職者給付金は雇用保険法第12条により非課税。所得税・住民税ともに対象外
- 給付金単独では確定申告は不要。源泉徴収票も発行されない
- 国民健康保険料・介護保険料・住民税非課税判定でも所得に含まれない
- 一方、退職金(申告書未提出)・年金・給与・医療費控除などがある場合は、給付金とは別の理由で申告が必要・有利になることがある
- 社会保険上の扶養判定では給付金が「収入」に含まれる場合があるので、配偶者の健保組合に事前確認を
「給付金そのものは申告不要」「ただし周辺の収入や控除があれば別途確認が必要」——この2点を押さえておけば、確定申告期に慌てる必要はありません。心配な場合は、税務署の電話相談(0570-00-5901)や、最寄りの確定申告会場の無料相談を活用するのも有効です。
なお、本記事は2026年6月時点の制度に基づいています。税制や社会保険制度は改正されることがあるため、最新情報は必ず国税庁・厚生労働省・お住まいの自治体の公式情報でご確認ください。